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引っ越しをすることになった。
今までの家はわりと気に入っていたけれど、人間二人とうさぎ二匹が住むにはあまりにも狭すぎた。

新しい家はすぐ近くなので、退去日をすこし後にずらして、数日かけて荷物を運んだ。ダンボールの手配も面倒で元々使っていたプラスチックの衣装ケースに少しずつ詰めた。雪の中をえいこらえいこら運んでいると、初めは中に入っているものが宝物のように感じられるのに、だんだん「なんでこんなくらだないもの必死で運んでるんだろう?」という気になってくる。でも、考えちゃだめだ。巣穴に帰る蟻のように、ただひたすら荷物を運ぶ。そうじゃなきゃとても終わらない。

洗濯機や冷蔵庫などの大物を運んだ夜は、街じゅうに霧がかかっていて10メートル先も見えないくらいだった。通りを走る車はほとんどいなかった。私たち以外に誰も。

「なんだか夜逃げみたいだね」

吐く息が、白く凍った。

同居人がみつけてきた部屋は、ちょっと和風で古いアパート。しかもすぐ側にごみの収集場所があって、正直いって第一印象は悪かったけれど黙っていた。たぶんあらゆる欠点は、住み始めてみればどうってことないのだ。

荷物の移動と同時進行で、前のアパートを隅から隅まで掃除した。6年分の汚れはそう簡単には落ちない。最後にカーテンを外すとき、
「いやー、これでここともお別れか。いっぱい喧嘩したな」
と同居人が呟いた。いっぱい喧嘩したどころか、喧嘩したことしか思い出せなかった。

私名義の部屋を出て、同居人名義の部屋へ。これから二人の新しい生活が始まるんだっていうワクワクと、これでいつでもどこへでも逃げられるっていうワクワクと、半分ずつ。